※ヴァルターとユーグ:1 ユーグ:フーッ、つえーな、アンタ。 一本も捕れねえぜ。 ヴァルター:私は騎士だからな。 おまえとは違う。 ユーグ:テメエ、どういう意味だ? ヴァルター:自分の胸に聞くのが早かろう。 ユーグ:テメエ……。 ※ヴァルターとユーグ:2 ユーグ:おい、おまえ! この前、俺様が 『騎士ではない』……と言ったな! ヴァルター:ああ、言った。 ユーグ:取り消せ。俺様は騎士だ! ヴァルター:取り消して欲しいなら、 この私から一本でも捕ってみろ。  それがなによりの証となろう。 ユーグ:やってやらあ! ユーグ:勝てない……どうしてだ! ヴァルター:ケンカ自慢で通ってきたのだろうが、  剣の腕にかけては、まだまだ……。  ……よければ、私が剣を 教えてやってもいいが。 ユーグ:うるせえ! 俺様は俺様の力で勝つ! ヴァルター:やれやれ……。 ※ヴァルターとユーグ:3 ユーグ:チクショウ! なぜ勝てねーんだよォーッ! ヴァルター:当然だ。 私はおまえの兄弟子に当たるのだからな。 ユーグ:なに……!? ヴァルター:私が従士の頃、当然のことだが、  ひとりの騎士に仕えていた。 その騎士の名はユーグ。 ユーグ:じゃあ、アンタ……! ヴァルター:おまえは忘れているようだが、 私は覚えているぞ、パーヴェル。  昔と変わらぬ、ケンカ小僧のようだな。 ユーグ:……そうか、なら勝てるわけねえよな。  こっちのやり方を 全部知ってるわけだからよ。 ヴァルター:おまえがなぜ、ユーグ様の名を  騙っているのか、事情には興味もないし 知りたくもない。  いま、おまえが王女殿下の忠実なる 騎士として仕えている、その事実だけが  真実だ。それに……。  おまえの剣からは、まっすぐな、 ユーグ様への想いが感じられた。 ユーグ:俺様は、そんな偉い人間じゃねえ。 すべて食い扶持のためだ。  ……なあ、ユーグ様って、 アンタから見てどんな騎士だった? ヴァルター:騎士の鑑だ。 あの方がおらねば、いまの私はおらぬ。  ……騎士の中の騎士だった。 ユーグ:……そうか。 ※レミーとユーグ:1 ユーグ:……おいあんた。 なに、ぼーっと空なんか見てんだよ。  俺様になんか教えてくれるんじゃねえのか。  執政官の奴から聞いたぜ。 あんた、すごい実力派なんだろ?  だったら、ちょっと俺に教えて……。 レミー:ククク……。 それが人にモノを頼む態度かい? ユーグ:な、なんだと!? レミー:僕は君のことなんて、 知ったことじゃあないし、  そもそも鍛錬に興味もない。 フィーリア様に頼まれたから、  こうしていやいや、 君に付き合っているだけさ。  そんな僕に、何かを頼みたいなら、 それ相応の態度って奴が、  必要だと思わないかい? ユーグ:騎士のクセに、なんて奴だ! わかったよ、もう頼まないぜ! レミー:おいおい、そう癇癪を起こすなよ。  それともなにかい? どういう態度が必要か、わからないのかい?  おかしいね……。 こういう礼儀作法は、見習い騎士時代に、  真っ先に叩き込まれるはずだけど。 ユーグ:ぎっくう!  し、知らないなんて、 あるわけねーだろ!? ただ、俺様のプライドがなあ! レミー:……ククク、面白い奴。  なるほど、フィーリア様も、 重宝なさるはずだ。  それで? 自分を磨きたいのか? 磨きたくないのか? ユーグ:そ、そんなの……。  そんなの、決まってるだろ。  強くなって、賢くなって、 すげえ偉い騎士になりたい。  他の騎士の頭を蹴ってやれるくらい、 すげえ騎士になりたい……。  だから地味な特訓だって、ちゃんと……。 レミー:ククク……。面白いね君は。 いいだろう、僕もふざけすぎた。  ちゃんとセンセイをやってあげるよ。 ユーグ:ほ、ほんとうか! レミー:だがお前の話の持っていき方は、 あんまりにも下手すぎる。  聞いていて腹が立ってくるくらいだ。 だからまず、そこを鍛えるぞ。  騎士なら礼儀作法と交渉術は、 ちゃんと身に着けておけ。 ユーグ:お、おうよ! ※レミーとユーグ:2 ユーグ:おいレミー! レミー:ククク……。 どうした、血相を変えて。 ユーグ:どうしたもこうしたもあるか!  おまえに教わった話術とやらを、 人に試してみたらなあ!  相手の機嫌が、死ぬほど悪くなったぞ!  てめえ、どういう話術を 俺様に教え込んだんだ!? レミー:ククク……クハハハ! ユーグ:爆笑すんな! レミー:それはそれとして、ユーグ。  今日はちょっとした、 槍捌きのコツを教えてやろう。 ユーグ:や、槍捌きだって!? そ、そいつぁ……。 レミー:目の色が変わったな。  なに、どうもお前の槍捌きは、 あまり上手じゃないようだからな。  ちゃんとした師匠に習えば、 ああは無様にはならないはずだが……。  誰に教わったんだ? ん? ユーグ:そ、そりゃあ……その。  お、俺様には師匠なんて、 必要なかったぜ! 我流だよ、我流! レミー:ククク……。嘘じゃあなさそうだな。  嘘が大好物な、僕のカラスが、 沈黙しているようじゃあ。  そういう無意味な正直さ、 嫌いじゃあないがね。 ユーグ:で、教えてくれるのか!? どうなんだよ! レミー:ああ、とっておきの技を、教えてやる。  さあ、馬を曳いてこい! ※レミーとユーグ:3 ユーグ:おいレミー! レミー:ククク……。 今度は誰に怒られた? ユーグ:そんなことは、どうでもいいだろ!  おまえはなんなんだ、 でたらめばっかり教えやがって! レミー:ちゃんとした騎士様ならともかく、  お前にはそれくらいでちょうどいい。 お前、平民だろ?  騎士の話術や武術を覚えて、 どうしようっていうんだ。 ユーグ:……あ、ぐ……。 なんで……。 レミー:言っただろう? 僕のカラスは、嘘が大好物でね。  まあ、そんなのに頼らなくても、  君の立ち居振る舞いをちょっと観察すれば、 すぐにわかることだけど……。 ユーグ:た、たのむ! 他の騎士には、 バラさないでくれ! レミー:……そいつぁ、事情しだいだね。  僕は黒貴族みたいに、 他人の人生を楽しむ趣味はないけど……。  大罪とわかって騎士に化けるってのは、 相当の覚悟がいるはずだ。  その覚悟には、興味があるからね。 レミー:……大体、事情はわかった。 いいだろう、誰にも言わないよ。 ユーグ:あ、ありがてえ……。 レミー:だがそんな調子じゃ、いつか誰かにばれる。  その相手が、僕のように、 気まぐれだとは限らない。  たいていの騎士は、騎士階級に、 平民が踏み込んでくるなんて、  許せないだろうしね。 ユーグ:……そ、そうか。  だが俺も、できる限り、 騎士らしくしているつもりなんだが……。  やっぱり教養が足りねえかな……。 レミー:そんなのは重要じゃない。  馬鹿で粗野な騎士だって、 いくらでもいるさ。  そもそも騎士と平民の違いは……。 ユーグ:違いは? レミー:……出来れば教えてやりたいが、  こればかりは、僕にはどうにも出来ないな。  騎士と平民の差は、 名誉を持って生きられるか……。   ……その一点なんだよ。 ユーグ:……名誉。 む、むずかしいな。  色々意味があるんだろう?  で、でもあんただって、 ちゃんとした騎士なんだから、  名誉のことは良くわかって……。 レミー:……僕はダメだ。 卑怯者の二つ名は、伊達じゃあない。  世襲で騎士の位を継がなければ、 そもそも僕だって、  騎士でいられるはずも……。 ユーグ:……そ、そんなことはないぜ!  あんたはすごく強いし、頭も切れる! 主君の役にも立ってる!  それで、十分に騎士だろう! レミー:……ふ、これだから、 名誉の価値を知らない奴は。  ……だがユーグ。 もしお前が本当に騎士に化け続け、  そして騎士になりたいならば。  ……僕の反対のことをしろ。 そうすれば、名誉を失わずに済む。 ユーグ:……あんたと、反対のことを? レミー:そうだ。がんばれよ  ……そしてもう、 僕にあまりかかわるんじゃない。 ユーグ:……あっ、レミー!? レミー、まてよ! ※ジークムントとユーグ ジークムント:ほっほっ、また一本捕ったぞ。 ユーグ:年寄りのくせに、じっちゃん強えーなー!  ……あっ。 ジークムント:『じっちゃん』? ユーグ:あーいや、ははは。 気にすんなよ。 ジークムント:ククク、『じっちゃん』か。 ウププププ……。 ユーグ:わ、笑うなよ! 呼び間違えたんだよ! 悪いか! ジークムント:アレじゃな。幼な子が、 母親以外のご婦人を『お母さん』  と呼んでしまうアレじゃな。ウププ……。 ユーグ:笑うなよー!