※エヴァンジルとザカート:1 エヴァンジル:不思議な剣術を使うなー。 翻弄されっぱなしだよ。 ザカート:母の故郷、東国イスティグファールの 戦士が身につける剣術だ。 エヴァンジル:イスティグファールの連中は、 みんなおまえみたいな剣を使うのか!  できれば、戦いたくない相手だな。 ザカート:極東に住む賢者は言った。 『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』  おまえがイスティグファールの男と 決闘するというのなら、私が奴らの  やり方を教えてやる。 エヴァンジル:いや……イスティグファールの女に 手を出すのはやめることにするよ。 ザカート:それがいい。 イスティグファールの女と浮気すれば、 切り取られるぞ。 エヴァンジル:『切り取られる』って……。 ザカート:うむ、切り取られる。 エヴァンジル:ひええ、怖い国だな。 素直に殺された方がマシだ。 ※エヴァンジルとザカート:2 ザカート:今日はろくに訓練もしていないが、 もう呑むのか? エヴァンジル:まあまあ、騎士同士の連帯感を育むのも、 大事な訓練のうちだ。  さあ呑みねえ食いねえ。  それで、呑み食いのついでに、 東国の話を聞かせてくれよ。 ザカート:女の釣り餌にするつもりか? エヴァンジル:わかってるなら話は早い。 さあ、話してくれ。おごりだよ。 ザカート:なにから話せばよいものやら。 エヴァンジル:そうだねえ、見どころとか。 ザカート:セミラーミデの空中庭園かな。 エヴァンジル:『空中庭園』? ザカート:自分の息子に殺されたセミラーミデ  という王妃が、夫に作らせた庭園だ。 空を飛んでいる。 エヴァンジル:空を!? どうやって! ザカート:知らんが、飛んでるんだ。 4年に1回、首都マナートの上空を通る。 エヴァンジル:庭園が飛ぶだなんて、鳥じゃあるまいし。 ザカート:そうだな、ルフ鳥あたりの 見間違えいなのかもしれんな。 エヴァンジル:絶対そうだって。 ……ルフ鳥ってのはなんだ? ザカート:そういえばこの国にはいないな。  翼を広げると、宮殿ほどもある 大きな鳥だ。 エヴァンジル:宮殿って、イシュメールの王城か!? そりゃでかすぎる! ザカート:いや、マナートの宮殿のことだ。  イシュメールの王城の3倍は広い。 エヴァンジル:……それ以上、聞いたって無駄だよ。  そんな話をしても、ご婦人方が 信じてくれるわけがない。 ザカート:そうだろうな、私も信じられん。 エヴァンジル(笑顔):……ん? うおーっ、さらりと騙したな、 この野郎ーっ! ※ザカートとジークムント ジークムント:フーッ、ああ疲れた。 この辺でやめにしよう。 ザカート:本日は、いろいろと勉強になりました。 ジークムント:ジジイにやれることなぞ、 技術の伝承くらいのものだからなあ。  ところでおぬし、イスティグファールから 参られたのかな? ザカート:母がイスティグファールの者であるだけで、  私自身はこの国の生まれです。 ジークムント:大変暑い国と聞いておる。 砂漠に人間が住めるのか? ザカート:日陰に入れば涼しいものです。  ジークムント様くらいのお年の方も 大勢住んでおりますよ。 ジークムント:フーム、イスティグファールで 住むのもいいかのー。 ザカート:これまたどうして。 ジークムント:この国には、長いこと住んでおった。  つらいことや悲しいこと、 いろんなことがありすぎた。  だから、無縁の土地で、 ひっそり過ごしたいと思うてな。 ザカート:ですが、楽しいことも たくさんあったでしょう? ジークムント:『楽しい』と『つらい』は表裏一体、  わしの楽しかった思い出は、すべて、 つらいことに結びついてしまう。  長く生きすぎたかもしれん。 ザカート:……今度、イスティグファールの首都  マナート特産のお茶をお淹れしましょう。  ジークムント様は茶を嗜まれる、 と耳にしました。お茶の味を見てから  考えてみてもいいのではないでしょうか。 ジークムント:ウム……それは重要じゃな。  茶のまずいところで死にたくはないわい。