※ディトリッシュとエヴァンジル:1 ディトリッシュ:見かけによらず、強いな、貴公は。  正直なところ、驚いたぞ。 エヴァンジル:実力より弱く見せておけば、  実戦ではより強い印象を与えられる。 それがうちに伝わる兵法でね。 ディトリッシュ:なるほどな。それはうまい。  だが、私に話してしまってよいのか? 次はその手が、私に通じなくなるぞ。 エヴァンジル:なに、隠している実力は、 一つや二つじゃない。  そっちだってそうだろう? ディトリッシュ(困り顔):……。 エヴァンジル:……隠してないのか。  見かけによらず、素直な奴だなあ、おまえ。 ※ディトリッシュとエヴァンジル:2 エヴァンジル:……なあ、君は、マンハイムで  政務を取り仕切っていたのだよな。 ディトリッシュ:ああ。 エヴァンジル:マンハイムにも、かわいい子はいるのか?  『闇の者』だらけだって聞いたんだが。 ディトリッシュ:人間の基準から美しいと感じられる種族も、 いるにはいる。  セイレーンやピクシー、 ク・メルの女などは、美人ぞろいだ。  ただ、翼が生えていたり、 尻尾があったりするがな。 エヴァンジル:今度紹介してくれよ。 ディトリッシュ:構わないぞ。 エヴァンジル:本当か? イヤッホウ! ディトリッシュ:ただ……。 エヴァンジル:『ただ』? ディトリッシュ:セイレーンの魔法の歌声を聞くと  セイレーンの虜になってしまうし……。  ク・メルの女を怒らせると、 鋭い爪でずたずたにされるぞ。 エヴァンジル:……遠慮しておこうかな。 ディトリッシュ:それがいい。 『種族を越えた愛』なんて、幻想だ。 ※エヴァンジルとヴァン:1 エヴァンジル:やぁやぁ、同士ヴァン。 今日の相手は、君かな? ヴァン:エヴァンジル殿か、よろしくご教授頼む。 エヴァンジル:硬い、硬いなー、君は。 老人くさいって言われない? ヴァン:これが性分だ。 気にしておらん。 エヴァンジル:おいおい、気にしろ。気にしろって。  私たちは、フィーリア姫の騎士。 フィーリア姫の顔といってもいいんだぞ。  姫のかわいらしいところをアピールすべく、  私達も愛想良くしなければならんよ。 ヴァン:なるほど、エヴァンジル殿の言葉にも、 一理以上のものがあるな。  だが愛想とは……。 これは難しい。 エヴァンジル:だいじょうぶだいじょうぶ。 だから私がここにいるんだろう?  私に任せておけば、君もすぐに、 姫にふさわしい騎士に早変わりだ。  まずはなんといっても、お洒落だよ。  その制服は、城の中ではいいかもしれないが、 ちょっと流行に遅れているな。  どれ、ちょっと街に出るか。 私がいいのを見繕ってやろう。 ヴァン:断る。これは王子殿下から戴いた制服だ。 エヴァンジル:……はいはい、そりゃしょうがないね。  確かに、もらったものは、着ないと失礼だ。 じゃあ、その剣だ。それを変えよう。  今の流行は、何と言っても、 西国ブエンディア風の曲刀……。 ヴァン:ターブルロンドの騎士ともあろうものが、 敵国の剣などもてるか!  汚らわしい! むっ? まさか貴殿の剣は……。 エヴァンジル:あー、いやいや! 曲がってない、曲がってないよー。  ほーらよくみてごらん、 曲がって無いだろ?  曲がって見えたら、それは目の錯覚だ。 ヴァン:……。 エヴァンジル:……な? ヴァン:……。 そうか、錯覚か。 近頃、目を酷使しているからな……。 エヴァンジル:……はー……。 ほんと疲れるな、ヴァンの相手は。 ヴァン:どこが疲れたのだ? まだなんの訓練もしていないぞ。 エヴァンジル:えい、うるさいよ! いいから黙ってついてこい! ヴァン:どこへ連れて行くつもりだ? エヴァンジル:お嬢さんがたが集まる、 街のカフェーだよ。  お洒落以前に、 君はもうちょっと世間を知れっ! ヴァン:なるほど、努力してみよう。 エヴァンジル:ああ、もう……。 ※エヴァンジルとヴァン:2(底なしのヴァン) エヴァンジル:よーしヴァン。  今日は君に、私が得意としている、 話術のコツを教えよう。 ヴァン:うむ。 よろしく頼む。 エヴァンジル:話術を磨くにはまず、 やわらかーい頭が必要だ。  なんと言っても、相手の考えを読み、 言葉を聴き、臨機応変に語れなければ、  良い結果はもたらせないからね。 ヴァン:そうなのか。 それは……難しそうだな。 エヴァンジル:……うん。君にそれを教えるのは、 すごく難しそうだ。  無理って気もする。 まあそれでも! 方法はちゃーんと考えてある!  とにかく、ここじゃだめだ。 私についておいで! エヴァンジル:そこの麗しきお嬢さん。  まずはこのお店で、 一番おいしいお酒を頼むよ。 ヴァン:……酒場ではないか。 自分は飯を食いに来たのではないぞ。 エヴァンジル:おお、騎士王に栄光を!  あなたのような豊満な美女に、 出会うことができるなんて!  ささ、こちらのテーブルで、 一緒に呑みませんか?  ……え、飲まない? そう……。 ヴァン:エヴァンジル! エヴァンジル:うわおっ!? 思ってない思ってない!  どうせ特訓しても無駄だから、 君をさっさと酔い潰して、  一人で遊ぼう……なんて思ってないよ!? ヴァン:そうか、思ってないならば、いい。 エヴァンジル:あーあ……。  ま、ここに来た目的は、だ! 酒を飲んで、頭を柔らかくすることだよ。  さあ、君も飲め飲め。 その真面目な様子じゃ、  あまり酒盛りなんてしないだろ? 酒も話術も慣れだよ、ヴァン。 ヴァン:うむ、わかった。 いただこう。 ……ぷはっ。 エヴァンジル:おお……いい呑みっぷりだねえ。  じゃあ私も、少し付き合って呑もうかな。 ……。 …………。 ヴァン:……どうしたエヴァンジル。 もう呑まないのか? エヴァンジル:ま、まだまだだよ。 これくらいで……。  あららら〜〜? ひざが笑って立てないよ〜? ヴァン:まだ1樽も飲んでいないではないか。 もっと呑まんと、酔えんぞ。 エヴァンジル:お、おかしいな〜。 こんなはずじゃあ……。 ※エヴァンジルとザカート:1 エヴァンジル:不思議な剣術を使うなー。 翻弄されっぱなしだよ。 ザカート:母の故郷、東国イスティグファールの 戦士が身につける剣術だ。 エヴァンジル:イスティグファールの連中は、 みんなおまえみたいな剣を使うのか!  できれば、戦いたくない相手だな。 ザカート:極東に住む賢者は言った。 『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』  おまえがイスティグファールの男と 決闘するというのなら、私が奴らの  やり方を教えてやる。 エヴァンジル:いや……イスティグファールの女に 手を出すのはやめることにするよ。 ザカート:それがいい。 イスティグファールの女と浮気すれば、 切り取られるぞ。 エヴァンジル:『切り取られる』って……。 ザカート:うむ、切り取られる。 エヴァンジル:ひええ、怖い国だな。 素直に殺された方がマシだ。 ※エヴァンジルとザカート:2 ザカート:今日はろくに訓練もしていないが、 もう呑むのか? エヴァンジル:まあまあ、騎士同士の連帯感を育むのも、 大事な訓練のうちだ。  さあ呑みねえ食いねえ。  それで、呑み食いのついでに、 東国の話を聞かせてくれよ。 ザカート:女の釣り餌にするつもりか? エヴァンジル:わかってるなら話は早い。 さあ、話してくれ。おごりだよ。 ザカート:なにから話せばよいものやら。 エヴァンジル:そうだねえ、見どころとか。 ザカート:セミラーミデの空中庭園かな。 エヴァンジル:『空中庭園』? ザカート:自分の息子に殺されたセミラーミデ  という王妃が、夫に作らせた庭園だ。 空を飛んでいる。 エヴァンジル:空を!? どうやって! ザカート:知らんが、飛んでるんだ。 4年に1回、首都マナートの上空を通る。 エヴァンジル:庭園が飛ぶだなんて、鳥じゃあるまいし。 ザカート:そうだな、ルフ鳥あたりの 見間違えいなのかもしれんな。 エヴァンジル:絶対そうだって。 ……ルフ鳥ってのはなんだ? ザカート:そういえばこの国にはいないな。  翼を広げると、宮殿ほどもある 大きな鳥だ。 エヴァンジル:宮殿って、イシュメールの王城か!? そりゃでかすぎる! ザカート:いや、マナートの宮殿のことだ。  イシュメールの王城の3倍は広い。 エヴァンジル:……それ以上、聞いたって無駄だよ。  そんな話をしても、ご婦人方が 信じてくれるわけがない。 ザカート:そうだろうな、私も信じられん。 エヴァンジル(笑顔):……ん? うおーっ、さらりと騙したな、 この野郎ーっ! ※エヴァンジルとヌシャトー エヴァンジル:いやあ、なかなかやるねえ。 粘り腰があるというか。  一度剣を払っても、二度三度と突いてくる。  ポランニー人の活力ってのは、 真にたいしたものだなあ。  ……『あっちの方』も長持ちするって 聞いたのだけど、どうなんだい? ヌシャトー:と言われた。 『あっちの方』とはなんだ? エクレール:えーと、それは……。 …………。  エーヴァーンージールーさーまー!  まったくあの方は、 くだらないことばかり……! ※エヴァンジルとコルネリウス コルネリウス:エヴァンジル、貴様ぁ! エヴァンジル:なんだなんだ、いきり立って? コルネリウス:我と我が一族の名誉にかけて、 貴様は許さん!  剣での決闘を申し込む! エヴァンジル:まてまて、わけがわからん!  うわ、受けるともなんとも言ってないのに、 向かってくるんじゃなーい! コルネリウス:強い……。 エヴァンジル:いや、 そんだけ頭に血が上ってりゃ、 その辺の子供にも負けるさ。 コルネリウス:おまえにだったら、 妹をくれてやってもいいな……。 エヴァンジル:妹? お、おい。なんだそりゃ。 コルネリウス:幸せにしろよ。 でないと俺は、一生おまえを許さんぞ! エヴァンジル:ちょっと待て! 身に覚えがない! まったく覚えがないぞ!