※アストラッドとヴァルター:1 アストラッド:さあ師匠! 今日も稽古を付けてください!  剣か槍だと嬉しいです。  弁論術や科学でも、師匠が 教えてくれるんでしたらやりますけど。 ヴァルター:お前に頭使うこと教えても、 すぐに忘れるからなあ。  ま、騎士の本来の存在意義は、 恐れずに戦いに赴き、勝つことだ。  まずは戦いの腕を磨くとしよう。  どれ、剣術はしっかり復習してたか? 様子を見てやろう。  軽くかかって来い! アストラッド:はい! 行きます! アストラッド:あいたたた……。  やっぱり師匠は強いなあ。 アザだらけにされちゃった。 ヴァルター:おまえな、勢いがいいのは認めるが、 少しは防御も考えろよ。  街の子供のチャンバラのほうがましだぞ。 アストラッド:えー、そりゃひどいです、師匠。  オレ、教わったとおりにやってます。 ヴァルター:ん、そうか? 確かに動きだけ見れば、そうかも知れんな。  だが、なにか違うんだよなあ、 お前の戦い方は……。 アストラッド:それじゃ、もう一本お願いします! ヴァルター:ああよし、わかった。 何度でも来い!  数をこなすに勝る訓練は無いからな。 ※アストラッドとヴァルター:2 アストラッド:師匠! 今日もおねがいします! ヴァルター:まてアストラッド。この間の話だがな。  いや、忘れてるだろうから言ってやるが、  『お前の剣はなにか違う』という奴な。 少し、思い当たることがある。 アストラッド:えっ、なんですか?  直せることなら、オレ、 すぐに直しますよ。 ヴァルター:……アストラッド。 お前、人殺したことあるか? アストラッド:えっ!? そ、そんなの、 あるわけ無いじゃないですか。 ヴァルター:俺はあるぞ、殺したこと。 決闘で3人ほどと、悪党をたくさん。  騎士であるならばむしろ、 何人かは殺しているのが普通だが。  そうか、殺めた経験がないのか。 それが原因だな……。 アストラッド:オ、オレだって、フィーリアのためなら、  いつでも相手をやっつける覚悟はあります。 大丈夫ですよ。 ヴァルター:ちっとも大丈夫じゃあない。 お前の剣は、無邪気なんだよ。  相手をぶち殺してやるという、 黒い気迫が足りてない。  そのくせ気楽に急所を狙う。  斬ったり斬られたりしたら、 人間の体がどう壊れてどう死ぬか、  そして人が死ぬのがどういうことか。 お前はそれが、あまりにわかっていない。 アストラッド:……よく、わかりません。 今のままじゃ、いけないんですか? ヴァルター:俺は、良くないと思う。  平民なら別にかまわんが、 お前は騎士なのだからな。  誰かを殺してこいとはいわんが、 一度ちゃんとした決闘なりして、  命の脆さと尊さを知って来い。 アストラッド:でも……。 剣や槍を一度血に染めたら、  もう落ちない気がして……。 ※アストラッドとヴァルター:3 ヴァルター:ダアアアッ! アストラッド:うわあっ!? くっ、そこ! ヴァルター:……どうやら、剣も槍も、 穢れの無いままのようだな? アストラッド:……すいません師匠。  でも命がどうこうってのは、 オレの思うのと違う気がするんだ。  オレはただ、戦いがうまくなりたいんだ。 相手をやっつけたいんじゃあない。 ヴァルター:……。 アストラッド:オレにはうまくいえないけど、 フィーリアは、たぶん、  そういうのわかってくれてる。 ヴァルター:そうだな。  殿下はお前に、 決闘や殺し合いをさせたくないらしい。  まったく、決闘に出せば勝てる腕だというのに。 もったいないことだ。 アストラッド:え……? ヴァルター:もういい。 お前の騎士人生だ。 お前の望むようにすればいい。  使うために剣の技を磨くのではなく、 技を磨くために技を磨く……、  そんな生き方もアリだろう。 アストラッド:は、はい! ヴァルター:よし、これからはお前が技を磨け。  俺がそのおこぼれを預かって、 実戦で活用する。 それでいいな? アストラッド:え、なんだかそれ、 ずるくないですか!? ヴァルター:ここまで付き合ってやったんだから、  こっちにもいい思いをさせろぉ! ※ヴァルターとイリヤ ヴァルター:よーし、実戦のつもりでかかって来い。 イリヤ:……いいのか。 オレは手を抜かないぞ。 ヴァルター:鉛入りとはいえ、木剣だ。 当たっても死にゃあしないよ。  ああ、それとも、 自分が怪我するのが怖いのかい? イリヤ:……ッ! バカにするな! ヴァルター:むっ、なかなかやるじゃないか。 イリヤ:……どうだっ! ヴァルター:こうだっ! イリヤ:アウッ!  け、剣の訓練だろう。 体当たりとは卑怯じゃないのか。 ヴァルター:はは、すまんすまん。  お前の腕がなかなか立つもんで、 つい奥の手の体術が出てしまった。 イリヤ:……そういうことなら、いい。  オレの腕が立つのが悪かったんだからな。 ヴァルター:だがイリヤ。  お前の剣はなかなか鋭いが、 騎士の剣術じゃあないな。 イリヤ:なにいっ!? どういうことだ! ヴァルター:剣を小さく構えてスルリと近づき、  相手の胸元にぶつかるくらいの位置で、 グサッと一突き……。  これは暗殺者が良くやるやり方だ。 おまえ、剣の師は誰だ? イリヤ:なっ……!? 暗殺者の剣だと?  さっきの短い撃ち合いで、何がわかる! それとも負け惜しみか! ヴァルター:おいおい、怒るなよ。 俺は感じたことを言ったまでだ。  たいていの騎士は、 剣をこう使う。  まずは、大きく振りかぶって……。 こうだ! イリヤ:……無駄に大きい動きだな。スキだらけだ。  そんなだからさっき、隙をつかれたんだ。 ヴァルター:ははは、そうだな。  見栄えのする動きが染み付いてるから、 どうしても隙はできる。 イリヤ:ばかな。わかっているのになぜ直さん。  そんな大振りをしたところで、 おびえるのは平民や雑兵だけ……。  いや、そうか。 そういう奴らの一群と戦うには、  大仰な動きのほうが良いというわけか。 ヴァルター:理解が早くて助かる。  騎士はなによりまず、 戦争で勝たなきゃならんからな。  敵の大軍の士気をくじくには、 派手で雄々しく戦わねばならん。  故に、剣術の動きはこうなる。 イリヤ:そうか、確かにオレの剣は、 狙い澄ませて一人を殺すための、  暗殺者の技かも知れないな。 ヴァルター:まあ、それも悪くはないさ。 そういった技術も必要だ。  だが、どこでそれを教わった? 俺はそれが疑問なんだ。 イリヤ:誰に教わったというわけではない。 自然に身についたものだ。 ヴァルター:なに? 独学でそこまでの技術を? イリヤ:ああ。 人を斬っている内に、 体がいつのまにか覚えていた。 ヴァルター:……なるほどな。納得がいった。 生きるために振るった剣は、  殺すための形に収斂するものだ。 イリヤ:物騒な話をしたと思ったのだが、 あまり、驚かないんだな。 ヴァルター:騎士たるもの……いや、人間であるならば、  いろいろ過去があって当然だからな。 イリヤ:ふっ……。違いない。  ……騎士の剣術には、興味がある。  せっかくだ、今日はそれをじっくりと オレに教えてくれないか。 ヴァルター:いいだろう。 だが俺の教え方は、ちょっと荒いぞ?  ついてこれるか? イリヤ:貴様こそ、気を抜いて怪我をするなよ。 ヴァルター:よく言った! さあ、こいっ! ※ヴァルターとヴァン:1 ヴァルター:だいぶ、剣の腕が上達してきたな。  槍も使えるレベルになってきた。 だが、迷いが見られる。  おまえ、まだ王子を探しているのか? ヴァン:自分は、王子の騎士ですから。 ヴァルター:おいおい間違えるな。 おまえは今、王女殿下の騎士なんだ。  例え俺が相手で、それも冗談だとしても、 絶対にそんなことを口に出すな。  いったん雇われれば、雇用主が 正義に反しない限り、忠誠を誓う。  それは騎士である以上に、 大人としての常識だぞ? ヴァン:言いたいことはわかります。 が……。 ヴァルター:悩んではいるんだな。 わかるよ。それが剣筋にも出ている。  まあいい。どちらであれ、 迷いなく『誰々の騎士だ』といえるようになれ。  そうすれば、剣や槍の狙いも定まる。 ヴァン:……ありがとうございます。 ※ヴァルターとヴァン:2 ヴァルター:よーし、ヴァン。 今日は体をつくるためにも、  街でうまいものを食ってこようじゃないか。 ヴァン:お誘いは感謝するが、遠慮しておこう。 ヴァルター:なんだ、手持ちが乏しいのか?  心配するな、 若いのに奢ってやるくらいの金は、 持っているさ。 ヴァン:いや、そうではない。 飲食は宿舎でするようにしているだけだ。  体をつくるときも、 それを変えるつもりはない。 ヴァルター:宿舎のメシだけじゃ、飽きるだろう?  酒もそろっちゃいるが、 銘柄優先で本当にうまい酒が無い。 ヴァン(笑顔):たしかに惣菜の種類は少ない。  だが、厨房の者たちが、 心を込めて作ってくれるものだ。  定番の野菜シチューなど、 季節ごとに具の仕入先を変えているらしい。  よく噛めば、その土地ごとの味わいがある。  パンも朝夕の焼きたて、肉は新鮮。  味に飽きたと思ったことは無いし、 食べずに済ませては申し訳ない。 ヴァルター(笑顔):……そういう言い方をされると、  宿舎の飯のほうが魅力的に思えてくるな。 ヴァン(瞑目):ん? すまぬ、ヴァルター殿の行きつけの店を、  批判したつもりはなかったのだが……。 ヴァルター:いやいや、心配するな。 言葉を悪く受け取ったわけではない。  だが、酒はどうだ? 宿舎で出る酒は、銘柄こそ立派だが、  気取りすぎな味だと思わんか。 ヴァン:酒は……。 たしなむ程度だから、なんとも。  君主と仰ぐ方の傍で、 仲間に囲まれて飲む酒ならば、  銘柄はかまわん……なんでもうまく飲める。 ヴァルター:ほう、雰囲気で飲む男だったのか。 こいつは意外だったな。  ひとりでちびちびやるのが好きかとばかり。 ヴァン:自分が飲みの輪に加わると、座がしらける。  そういう意味では、 ヴァルター殿の言うとおりだ。  みなが盛り上がっているのを肴にして、 ひとり手酌を傾けるのが常だった。 ヴァルター:……おまえ、いいやつだなあ。  よしわかった。 今夜は俺と一緒に、 宿舎で飲み明かそうじゃないか! ヴァン:……志同じくする男と、 夜を徹して飲む……、か。  一度やってみたいと思っていたのだ。 エクレール:……お酒の備蓄がなくなったぁ!? どういうことですの?  まだまだ備蓄があったはずでしょう? 料理長:ヴァルター殿とヴァン殿が、 すこし嗜みたいといって、  何本か持って行かれたのですが……。  あとから何度もやってきて、 結局全部……。 エクレール:……そーいうのは、嗜むではなくて、  がぶのみっていうんですわ。  大体、今日はあの方達、 訓練だったはずですのに……。 まったく。 ※ヴァルターとグイード:1 グイード:……ああ疲れた。 おまえはよく体力がもつな。  不摂生度合いは変わらんと思うが。 ヴァルター:日々の鍛え方が違うし、 残念ながらトシも違うさ。 グイード:抜かせ、お前ももうすぐ30の大台だ。  そうなりゃ、オレの気持ちもわかる。 だいたいオレだって、  今のお前の年のころは、 夜通し貴婦人のお相手をだなあ。 ヴァルター:あー……またそっちの話か。 好きだなぁ、ほんとに。 グイード:なんだ、この程度の話も、 きつくなってきたのか。  お前、年々潔癖症になるなあ。  滾ってる若い連中の話に、 混ざれんのじゃないか。 ヴァルター:今の若い奴らは、昔の俺たちほど、 ご婦人に執着が無いようだぞ。 グイード:それは本当か? 奴らは何が楽しくて生きてるんだ? ヴァルター:国が乱れてるからなあ……。 余裕も無いのかもしれん。 グイード:ああ、それなら わからんでもないな……。 ※ヴァルターとグイード:2 グイード:ヴァルター。 今日はオレのおごりだ。呑め。 ヴァルター:おい、どうした急に?  そんな顔で言われたら、 じゃあ奢られるぜ、なんて言えんだろう。 グイード:どうも最近、いやな予感がする。  シジェルからの迎えが、 いよいよ近いのかもしれん。 ヴァルター:お、おい……。 グイード:まて、最後まで言わせろ。  俺は死ぬ前に、お前に一言だけ、 詫びをしておきたいのだ。  今日の驕りは、詫びの酒だ。  ……ミザリィのことは、すまなかった。  あの時オレに、もうすこし覇気があれば、 あんなことには……。 ヴァルター:……。  いや、あの時あなたの忠告を、 ちゃんと受けなかった私が悪いんだ。  あなたは何も、悪くなかった。 グイード:お前はそう言うがな。 オレは思うんだよ。  もっと強く言うべきだった。 殴ってでもわからせるべきだった。  いや、いっそこの手で、 あの女を殺しておけば……。 ヴァルター(笑顔):たしかにあなたがあの時そうしていたら、  私は救われたかもしれない……。 だが……。  もしあなたにミザリィを殺されていたら、 私はきっとあなたを許せず……。  今こうして、共に酒を飲める友を、 永久に失っていたことだろう。 グイード:……。 ヴァルター:失ったものは大きかったが、 それは全て取り戻した。  ……だから、これでいい。  後悔するようなことなど、 あのときには、なにも無かった。  ……それでいい。 グイード:……そうか。そうだな。  だがヴァルター! 一つ言っておく!  オレはお前の友じゃない! 先輩であり、兄弟子だろうが! ヴァルター(笑顔):……ああ、そういえば。  つい忘れていましたよ、ははは。 グイード:まったく、武術のスジがいいからと、  甘やかし過ぎたようだ。 すこし厳しくせんとな。  ほら、もっと呑めヴァルター。 命令だ! ヴァルター(笑顔):了解であります、グイード殿! ※ヴァルターとギィ ヴァルター:これを振り下ろせば勝てる! フンッ!  お、折れた!? ギィ:おぬしの負けだ。 ヴァルター:見事な腕前……。 いずこで学ばれた? ギィ:教えれば、おぬしも私と同じ 暗黒道を突き進むことになろう。 ヴァルター:いったいあなたは……? ギィ:失礼致す。 ※ヴァルターとユーグ:1 ユーグ:フーッ、つえーな、アンタ。 一本も捕れねえぜ。 ヴァルター:私は騎士だからな。 おまえとは違う。 ユーグ:テメエ、どういう意味だ? ヴァルター:自分の胸に聞くのが早かろう。 ユーグ:テメエ……。 ※ヴァルターとユーグ:2 ユーグ:おい、おまえ! この前、俺様が 『騎士ではない』……と言ったな! ヴァルター:ああ、言った。 ユーグ:取り消せ。俺様は騎士だ! ヴァルター:取り消して欲しいなら、 この私から一本でも捕ってみろ。  それがなによりの証となろう。 ユーグ:やってやらあ! ユーグ:勝てない……どうしてだ! ヴァルター:ケンカ自慢で通ってきたのだろうが、  剣の腕にかけては、まだまだ……。  ……よければ、私が剣を 教えてやってもいいが。 ユーグ:うるせえ! 俺様は俺様の力で勝つ! ヴァルター:やれやれ……。 ※ヴァルターとユーグ:3 ユーグ:チクショウ! なぜ勝てねーんだよォーッ! ヴァルター:当然だ。 私はおまえの兄弟子に当たるのだからな。 ユーグ:なに……!? ヴァルター:私が従士の頃、当然のことだが、  ひとりの騎士に仕えていた。 その騎士の名はユーグ。 ユーグ:じゃあ、アンタ……! ヴァルター:おまえは忘れているようだが、 私は覚えているぞ、パーヴェル。  昔と変わらぬ、ケンカ小僧のようだな。 ユーグ:……そうか、なら勝てるわけねえよな。  こっちのやり方を 全部知ってるわけだからよ。 ヴァルター:おまえがなぜ、ユーグ様の名を  騙っているのか、事情には興味もないし 知りたくもない。  いま、おまえが王女殿下の忠実なる 騎士として仕えている、その事実だけが  真実だ。それに……。  おまえの剣からは、まっすぐな、 ユーグ様への想いが感じられた。 ユーグ:俺様は、そんな偉い人間じゃねえ。 すべて食い扶持のためだ。  ……なあ、ユーグ様って、 アンタから見てどんな騎士だった? ヴァルター:騎士の鑑だ。 あの方がおらねば、いまの私はおらぬ。  ……騎士の中の騎士だった。 ユーグ:……そうか。 ※ヴァルターとヴァン  王子イベント ヴァルター:うむ、確かに、王子の剣の腕は 確かなものだった。が……。  強いて文句をつけるならば、 実戦慣れしていなかった。  王宮育ちの人間に、実戦慣れしろ、 というのも無理な話ではあるのだがな。  ヴァン、おまえの剣にも、 似たようなところがある。 他の技も覚えろ。  足払い、目つぶし、フェイント、頭突き。  短剣使い相手には、剣の柄で殴ることも 必要になってくる。  懐にいる相手には、 剣を振り下ろすより、柄で殴った方が  早いことはわかるだろう。 ヴァン:そんなのは面倒だ。 騎士のやることではない。  懐を狙ってくるような詰まらん手合いは、  従者にでも相手させれば良いでしょう。 ヴァルター:真正面からの決闘ならいざ知らず、  一度戦場へ立つようなことがあれば、 事情は変わってくる。  敵は、国王候補者だけではない。  この『試練』が終われば、外敵との 戦いも予想されるのだ。  いまのうちに、騎士以外の戦い方を 身につけておけ。 ヴァン:……心得た。