・フェリクス フェリクスの猫:ニャー。 フェリクス:この度は公務のお忙しい中、 僕たちをお招き頂きまして、  恐悦至極に存じますだにゃん。  ……と、ピリンフルドガルフ十二世も 申しております。  え? 短い『ニャー』の中に 本当にそんな意味が込められているのか、  ですって?  さあ、どうでしょうか。 それは姫様次第だと思いますよ。  姫様にピリンフルドガルフ十二世の言葉が  わからない以上、事実を確認する方法が ないのですから。  私の言うことを姫様が信じられない、 というのであれば、いくら私が本当だと  言ったところで、無意味ですし。  ただひとつ確かなことは、私には ピリンフルドガルフ十二世の『ニャー』が、  そのように聞こえたということです。  姫様は、私の言葉を……信じますか? >もちろん、信じます。 フェリクス:ありがとうございます、姫様。 素直に、嬉しいです。  ……私がピリンフルドガルフ十二世と 意思疎通できるということ自体、  皆さん信じてくれませんから。  それなのに、あの長台詞にも関わらず、 さっきの言葉を信じてくれた姫様は、  私のことを信頼してくれているのですね。  私も、その信頼に応えられるように、 これからもピリンフルドガルフ十二世の  言葉を、姫様に伝えていきませんとね。  ……騎士としての仕事を頑張って欲しい、 という顔をしてますね。  あはは。 ごもっともでした。 >わからないです。 フェリクス:うーん。 わからない……ですか。  確かにそうですよね。  実際のところ私自身でも、本当にこいつの 言っていることを100%正しく理解  できているのか、半信半疑ですし。  それなのに、姫様に信じろ、 というのも無理なことでしょうね。  ……ですが、姫様。 信じた方が夢があるとは思いませんか?  私が、ピリンフルドガルフ十二世の言葉を 本当に理解できているんだって考えた方が、  面白いと思いますよ。  そして、あの短い『ニャー』の中に あれだけの長い意味が込められているんだ、  って考えれば。  別にネコの言葉がどうのこうの…… というわけではないんですよ。  ひとつ非常識なことを飲み込んでしまえば、  他にもっと非常識なことが あったとしても……。  それはそれで信じることが できたりするもんですよ。  そうすれば一気に世界は広がるんです。  実はここだけのお話なのですが、 私ひとつ、とびっきり非常識なことを  知っているんですよ。  ピリンフルドガルフ十二世の言葉を 理解できるとか、そんなことよりも  もっと非常識なことを、ですね。  姫様が、私の言葉を信じられるように なったなら……。  まだ誰にも教えていないその話を、 姫様にだけこっそりとお話しして  差し上げますね。 >申し訳ありませんが、信じられません。 フェリクス:うーん、信じて頂けませんか。 それは残念です……。  ――なんて、ね。 申し訳ありません、姫様。  実は姫様の仰る通り、先ほどのは嘘でした。  ピリンフルドガルフ十二世は、 短い『ニャー』の中にあんな意味を  込めたりはしていないんです。  あいつはただ……。  こんにちは。  ……と、それだけ言っていたんですよ。  それにしても、姫様。 よく嘘をお見破りになりましたね。 さすがです。  ……と、怒ってしまわれましたか?  申し訳ありません、ほんの冗談のつもり だったのですが。  以後、姫様を騙したりなどしませんので、 今回はどうかお許し下さいませ。 フェリクスの猫:ニャー。 フェリクス:姫様、こんにちは、だにゃん。  ……と、ピリンフルドガルフ十二世も 申しております。  ふふ、今回はいたってシンプルな ご挨拶でしたね。  こいつがこういう挨拶をするときって、 大抵は、相手のことを気に入っている  場合なんですよ。 どうやら姫様は、 ピリンフルドガルフ十二世に  気に入られてしまったようですね。  どうでしょう。 姫様さえよろしければ、是非こいつを 婿に貰ってやって下さい。  ネコの王子様、なんてのも ロマンチックだと思いませんか? >ええ、喜んで。 フェリクス:お受けして頂けますか。 さすが、姫様です。  ささ、どうぞ。 ピリンフルドガルフ十二世を 抱いてやって下さい。 フェリクスの猫:ニャー。 フェリクス:大丈夫ですか? こいつ、テローダス魚の食べすぎで、  少し重いですが……。  ははは、二人ともお似合いですよ。  とてもお似合いなのですがやっぱり、 気が変わりました。  ピリンフルドガルフ十二世を 姫様のお婿さんにするのはやめておきます。  のけ者にされた私が、 嫉妬にさいなまれてしまいそうですから。  え? どちらへの嫉妬か、ですって?  さて、どちらでしょうかねぇ。 >そのような冗談、好きではありません。 フェリクス:……そうでしたか、申し訳ありません。  でも、私は別に冗談のつもりで 言ったのではなかったのですが――  って言い訳は見苦しいですね。  姫様のご機嫌を損ねてしまったのは 事実なのですから。  でも婿に……というのは無理でも、 試しにこいつを抱いてみるのは  いかがですか?  ふわふわしているので、 冬は重宝しますよ。  皮を剥いでマフラーを つくりたくなるくらいには。  あ、今のは冗談です。  ささ、どうぞ。 フェリクスの猫:ニャー。 フェリクス:どうです? 暖かいでしょう?  人の温もりにはかなわないですけどね。  ……っと、お婿さんにしないのなら、 ここまでです。  いわゆるひとつの お試し期間というやつですね。  姫様が貰わないのなら、 こいつは私のものですから。  姫様は、姫様を暖めてくれる 姫様だけの殿方を見つけて下さいね。 >ネコさんよりも、フェリクスの方がいいわ。 フェリクス(困り顔):――え? 私……ですか。  弱りましたねぇ。 予想外の答えです……。  もちろん、姫様一流の冗談ですよね? なかなかの不意打ちでした。  私を冗談で動揺させるなんて、 姫様もなかなかにやり手ですね。  ちょっと尊敬してしまいます。 フェリクスの猫:ニャー。 フェリクス:僕には冗談に聞こえなかったけどにゃん。  ……って、ピリンフルドガルフ十二世まで そんな冗談を。  姫様が私に好意を寄せているはず なんてないじゃないか。  だって彼女が百五十年前に 結ばれた相手というのは――。  ……っと、危うく口が滑るところでした。  すみません、今のはなんでもないので 忘れて下さい。  今日は、姫様の不意打ちのせいで ちょっと調子が出ませんね。  また後日、改めてお話でも致しましょう。 本日はこれにて……。 フェリクス:お待たせしました。  さっそくネコの生態について、 講釈をいたしましょう! フェリクス:もしかして、ピリンに会いたくて 呼ばれました? ダメですよ、  あいつに獲られるわけには……おっと。