・ヴァン ヴァン:お招きいただき光栄です。  貴婦人は、勇者の武勇伝より、 恋物語を好むと聞きました。  殿下も、そうなのでしょうか。 >恋愛物語は大好きよ。 ヴァン:自分は、生まれてこの方、 恋愛というものに縁がありませんでした。  いまでもよくわかりません。  貴婦人方があこがれるくらいですから、 いいものだとは思うのですが。  目に見えないものは苦手です。 >武勇伝のがいいかな。えい、やっ! ヴァン:それはよかった。  実は今日、街に剣を研ぎに出かけたところ、 面白い騒ぎが一つあったのです。  自分が往来を歩いておりましたところ、 暴れ馬がやってまいりまして……。 >大道芸人の滑稽話の方が好き。 ヴァン:自分は、滑稽話も苦手です。  なにが面白いのかどうにもわからず……。  無理に笑ってみたら、 間をはずしたことも多々ありまして。  どうも、難しいです。 ヴァン:本日は王女殿下に、 引き合わせたい仲間が居ります。  王子殿下と親しかった友です。 調教師:おや、ヴァン様。 今日もおいででしたか。  ……はっ、姫様も! こんな汗やらなにやらで汚れた格好で  出てきてしまい、失礼いたしました。 >この人が仲間? ヴァン:殿下は下々に優しかったが、  このものは別に、仲間と呼ぶほどの、 大物ではありません。 調教師:……ははは、全くその通りで。 >気にしないで、勤労の結晶よ。 調教師:あ、ありがとうございます! ヴァン:……うむ、然り。 >ヴァン、早くその友達に合わせて。 ヴァン:うむ、こちらです。 調教師:……とほほ、視線をむけてさえ もらえなかったなあ……。 馬:ヒヒヒヒ〜〜ン! ヴァン:おちつけシャルボヌー。 殿下ではない。妹君だ。  王女殿下、こいつこそ、 自分が共に、王子を待つ仲間。  王子の愛馬、シャルボヌーです。 シャルボヌー:ヒヒヒヒ〜〜ン! ヴァン:うむ。シャルボヌーも、王女殿下に会えて、  喜んでいるようです。 いつもはこんなに、飛び跳ねないのですが。 調教師:ヴァン様、ヴァン様! 興奮してるんですよ!  あまり煽ってやらないでください。 ヴァン:シャルボヌーは賢い。 その季節でもなければ、  無意味に興奮したりはせん。 調教師:おかしいな、落ち着けよシャルボヌー。  姫様があんまりひらひらしてるから、 びっくりしたのかな〜〜。  まさか姫様のことを、 王子様と間違えはしないだろうし。 シャルボヌー:ヒヒヒヒ〜〜ン! ヴァン:……むう? これはさすがに、少々危ないか……。  王女殿下、一度中庭に出ましょう。  心配ありません、すぐに収まるはずです。  すぐに、顔を並べて王子殿下の 思い出話ができるようになるでしょう。 エクレール:姫様はヴァン様といっしょに 遊んでらっしゃいますし、  眼鏡はお仕事ですし……。  ああ、降ってわいたような、 お休みの時間ですわ!  さあ、何をいたしましょう!  ここはやはり、姫様のご衣裳を、 丁寧に虫干しするか、  特製のお茶菓子を作るか……。 ……あら?  あそこでしょんぼりしてるのは、 ヴァン様と姫様? どうしたのでしょう? ヴァン:……。  ……王子殿下と、王女殿下を間違えるか。 まさか、な……。  ……王女殿下。自分も時々、ふと、  殿下の後姿に、王子殿下の背と同じ何かを、 感じるときがあるのです。  いくらご兄妹とはいえ、 背格好も違うと言うのに……。  おかしな話です。 >私は兄の代わりではないわ。 ヴァン:もちろんです。今までに そのようなことを思ったことはないし、  これからも思わぬでしょう。  王子殿下は王子殿下であって、 替えの効くものではありません。 >兄の代わりになれるかしら。 ヴァン:なる必要はありません。 だれも偽の王子殿下など、望まぬでしょう。  ……あ、今の言葉はもしや、 自分を気遣って下さったのでしょうか?  申し訳ありません、気が付かず……。 >ほんとにおかしな話ね。 ヴァン:うむ、自分もそう思います。  ……もし。もしも。  誰かが犠牲になることで、 王子殿下が戻ってきてくださるなら。  自分はそれをやるでしょう。  だがもしその『誰か』が、 王女殿下だったなら……。  ……それを考えたくはありません。  いえ、所詮もしもの話で、 考える必要もないのでしょうが……。 エクレール:……こそこそ……。  そんな状態になったら、もちろん、  王子様はポイして姫様を選ぶに、 決まってるじゃないですか……。  ……うーん、でもまあ、 私とヴァン殿は、 逆の立場なのですわよね。  もし姫様が居なくて、王子さまが居て。  その状態でもし、王子様と姫様を、 引き換えにできるなら……。  ……そこで躊躇するということは、 ヴァン様も姫様のことを、  少しは想ってくれるようになったのかしら?  ……ん、もう。 いいところだってのに、 なんですの、うるさい……。 シャルボヌー:……! エクレール:……って、今の、馬ぁぁ!? ヴァン:……ん? 今のいななきはシャルボヌー? シャルボヌー:ヒヒヒヒ〜〜ン! 調教師:うわああ、止まれ、止まってくれ、 シャルボヌー!!  ヴァン様! シャルボヌーを止めてください!  馬房の止め木を壊して、飛び出したんです! ヴァン:……な、なんだと? まさか……。 シャルボヌー:ブルル……! フィーリア:…………。 シャルボヌー:……! ヒヒヒヒ〜〜ン! ヴァン:やはり、王女殿下を! ええい、血迷ったかシャルボヌー、  ここにおわすはお前の主ではない! エクレール:姫様、お逃げください! ここはエクレールが引き受けます! ヴァン:侍女殿、どこからわいた! どのみち、馬の脚から、 逃げ切れるものか!  ……やむをえん……!  うおおおおおおお! エクレール:ヴァン殿! ヴァン:王女殿下を連れて、離れろ!  ぐっ……! シャルボヌー、おとなしくしろ! できんのか! エクレール:ヴァン殿! 頭から血が! ヴァン:くるな侍女殿! 侍女殿が蹴られたら、 ひと蹴りで殺されるぞ!  ……シャルボヌー、このばかめ。  いかに王子殿下が恋しかろうと、 錯乱して妹君を傷付けようとするなどと。  ……この、ばかめ! 傷つけたくはなかったが……。 もはや、許しがたし! エクレール:ヴァン殿、すごかったですわね。  まさか暴れ馬を、 真っ向から止めるなんて! ヴァン:……錯乱した馬ごときに、 怪我を負わされるなど、  自分はまだまだ鍛錬が足りん。 エクレール:それ以上鍛えて、 どうしろと……。 調教師:……うわぁ! 怪我してるんだから、 暴れるなシャルボヌー! ヴァン:シャルボヌーめ、懲りておらんな。 いずれ決着をつけねばならんか。 エクレール:……好きにしてください。 ヴァン:……うむ。決着は決着として。  王女殿下、調教師が言うには、 シャルボヌーがおかしかったのは  主の不在に心痛めてとのこと。  そして主に恋するあまり、 王子殿下と王女殿下のにおいを勘違いして、  じゃれつこうとしたのでしょう。  ……。  もしよろしければ、あのシャルボヌー、 王女殿下の乗騎にしていただけませんか。  この際、王子殿下も怒りはしますまい。 エクレール:……あの暴れ馬を!? 姫様の!? ヴァン:……自分には、シャルボヌーの気持ちが、 少しわかるような気がするのです。 エクレール:……。 ……まあ、姫様がお決めになることですわ。  姫様、もしそのつもりがおありでしたら、 あとで厩舎に行ってみるとしましょう。 ヴァン:お招きいただき光栄です。  これだけ何度も呼んでいただいているのに、  王子の消息の尻尾すらもつかむことが できないのが歯がゆいばかりです。 >あなたならきっと見つけ出せるわ。 ヴァン:ありがたきお言葉。  殿下のご期待に沿えるよう、 粉骨砕身致します! >兄を信じて、気長に待ちましょう。 ヴァン:確かに、ある日ひょっこりと 戻ってこられる気もしますが……。  ……どうにも、心配です。 >別の話をしましょう。 ヴァン:……失礼しました。 殿下のご心痛のほどをお察しできず……。 ヴァン:お招きいただき光栄です。  最近耳にしたおもしろい武術論を ご披露いたしましょう。 ヴァン:よくぞお招きくださいました。  さあ、心ゆくまで中庭を 駆けましょう! ふたりは時が経つのも忘れて 中庭を駆けまわった……。